校正球が変形してしまったら?

あすみ技研の接触角計コラムへのご訪問、ありがとうございます。

 

今回コラムは「もし校正球の寸法が変ってしまっていることに気が付かなかったら?」です(もちろん校正をこまめに取れば一番良いのですが、費用対効果次第です)。

今回もわたくし、T.Sがコラム担当させていただきます。よろしくお願いします。

さて、冒頭でも書かせていただきましたが御客様より寄せられたお問合せの内容というのがこちらになります。

「校正球の寸法が熱膨張等で変わってしまっていることに気づかずに校正作業をした場合、接触角や表面張力の測定値は大きく変わってしまうものなのでしょうか?」

まず大前提として、

一般環境下での温度変化による熱膨張程度では測定値に影響するほどに校正球の寸法が変ってしまうことはありません。ですので「接触角も表面張力も測定値が変わることはありません」というのが回答になります。

当然、厳密に言えば一般環境下での温度変化でも寸法変化を全くしないわけではありません。測定精度への影響は無視して問題ないレベルの寸法変化と考えて良いという意味に捉えてください。

※ 弊社の経験上のお話をしますと、校正球の寸法変化よりも校正作業及び測定時の輝度調整やフォーカス調整の方がよほど測定値に大きく影響します。

ちなみに現在、採用している校正球の材質は熱が加わった際の形状安定性が高いとされるタングステンにカーボンや他金属を混ぜ合わせた合金鋼です(成分は切削工具にも使用される合金鋼に近いものです)。

一般環境下での寸法変化であれば測定精度への影響は無視して問題ないレベルとはいえ、当社では校正球の材質にも注意はしております。

こうして「大丈夫です!」とご説明しましても、本当かなぁ・・・?と思われる方も当然いらっしゃるかと思います。

以降で一般環境下での温度変化でどれくらい校正球の寸法が変わるのかも実際に計算してみようと思っていますので気になる方は引き続き、どうぞよろしくお願いします。

まずは接触角計と校正球について簡単にはなりますが、ご説明をさせていただこうと思います。

接触角計と校正球について

接触角計とは固体サンプルに付着した液滴をCMOSカメラ等を用いて水平面から撮影。固体サンプルと接する液体の接線との角度を計測する装置です。装置構成としてはイメージ図のようになり、これに解析用PCが必要となります。イメージ図は弊社のスタンダードモデルの「B100」という機種です。

接触角計 B100
接触角計 B100 イメージ図
実際の接触角測定画像
実際の接触角測定画像

そしてここから接触角計と校正球との関係について。

測定器や測定装置には必ず「校正」という作業が必要になります。

「校正」というのは標準器を用いて対象とする測定器が表示する値と真の値との関係を確認することです。

技術屋の皆様に営業マンの私がこの類の話をするのは大変恐縮なのですが・・・・、例を出すとノギスの校正ではブロックゲージが標準器に相当するかと思いますが、接触角計について当社での標準器が校正球となります。写真は校正球の実物になります。

接触角計用校正球(3mm)
接触角計用校正球(3mm)※中心部の銀色の部分

この「当社での」というのは、接触角計のメーカーによっては標準器が球でない場合もある為、このような表現とさせていただきました。実際に他社様では球ではなく、球のイラストを用いて校正をしていらっしゃるようです。

それでは何故、あすみ技研ではイラストではなく実際の球を使って校正をしているのか。

これについても理由はあるのですが、これについても書き出すと長くなってしまいそうでして・・・。詳しく知りたい御客様は別コラムのこちらをご一読ください。

そして実際の校正作業の中身はと言いますと・・・。

校正球直径を解析ソフトに入力して接触角計のカメラで校正球を撮影。校正球を接触角計のカメラで撮影した時に何pixelに相当するのかを確認する作業になります。

接触角や表面張力はそれを基準に測定します。実際の校正作業中の画面がこちらです(この時の校正球は3001μm、つまりは3.001mmの物を使っています)。

校正(キャリブレーション)画面
校正(キャリブレーション)画面

ここまでで接触角計と校正球の関係についてご理解いただけたでしょうか?

さて、ようやくここから実際に熱膨張の計算をしていこうと思いますが、その前に大事なことを一つ。

本コラムの冒頭部分で「寸法変化はしないわけではないが測定精度への影響は無視して問題ないレベルの寸法変化と考えて良い」とお話ししましたが、弊社は校正作業時に入力する校正球直径の最小入力単位を1μmにしております。

つまりは熱膨張による寸法変化が1μm以下ならば、測定精度に問題ないレベルの寸法変化と

 

いうことです。

温度変化による寸法の変化

さぁ、それでは熱膨張でどれくらいの寸法変化があるのかを計算してみましょう。

一般環境での温度変化による熱伸びは本当に無視できるくらいのわずかな寸法変化なのでしょうか?

 

仮に元の校正球の寸法を「3000μm@20℃」とします。一般環境下での温度変化という前提になりますので、空調の効いた室内であれば室温は最大でも28℃くらいでしょうか。必ずしも「室内温度=校正球温度」となるわけではありませんが、今回はそのように考えて計算します。

校正球はタングステンと他金属の合金鋼ですが、主材質はタングステンなので線膨張係数はタングステンで考えます。

タングステンの線膨張係数は、4.3☓10-6 /℃ です。

金属の熱伸びを計算しますと、

ΔL=α(T2-T1)L

  • ΔL:熱伸び量(mm)
  • α(線膨張係数):4.3×10-6(/℃)
  • T2:変化後の温度(℃)
  • T1:変化前の温度(℃)
  • 熱膨張を計算したい方向の長さ:3(mm)

上式より室温28℃の時の校正球の熱伸び量は、

1.032×10-4mm( 0.1032μm )になります。

当然ですが、熱伸びは全方位です。よって校正球の熱膨張による寸法変化は室温20℃~28℃の環境で計算上、「3000μm~3000.1032μm」ということになります。

計算結果より、校正球の一般環境下における熱膨張での寸法変化は0.1μm(100nm)と測定精度に影響を及ぼすほどの寸法変化ではありませんでした。

接触角計や表面張力計はそもそも「絶対評価の装置」ではなく、「相対評価の装置」になります。厳密さを軽視しているわけではありませんが、必要以上に厳密さにこだわる必要もありません。

少なくとも一般環境下で校正球を保管することで起こる寸法変化では年次の校正作業等で測定精度が大きく狂ってしまうことはありませんので、ご安心ください。それでは今回はこのあたりで。 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。

(T.S)