接触角の測定結果が装置メーカーによって異なる時はあるのか?
いつもお世話になっております。あすみ技研、接触角計コラム担当のT.Sです。
コラムを書くのがかなり久しぶりになってしまった私ですが、今回は私が担当させていただいている御客様から頂いたご質問について書かせていただきます。
これについては感じたことがある御客様も他にいらっしゃるのではと思いましたので。それではさっそく参りましょう。御客様から頂いたご質問というのがこちらです。
過去に別のメーカーの装置で測定をした試料と同じものを今回あすみの装置で測定したけれども、結果が微妙に違う。表面状態の差とも考えられるので何回か試してみたが、どれも同じような結果。装置メーカーによって接触角の測定が異なることはある?あるのならそれは何故?
これ、装置更新のタイミングで接触角計のメーカーを変更したりですとか、レンタルで接触角計を利用している御客様で前回測定時のメーカーと今回測定で使用したメーカーが違ったりする時にお気づきになるようです。
確かに今までの測定値と少し違うとなんかちょっと「ドキッ」っとしますよね。もちろんこれはあすみ技研の装置がいけないわけでもなく、他社様の装置がいけないわけでもありません。断言はできないのですが、これから書くことに依るのではないかとあすみ技研では考えています。御客様のこれからの装置選定のご参考にしていただければ幸いです。それでは今回もよろしくお願いします。
当社では接触角の測定結果が接触角計メーカーによって違う場合について、以下の2つを考えています。
接触角の解析方法の違い
1つ目は「接触角の解析方法の違い」です。接触角の主な解析方法に「θ/2法」、又はtangent法(接線法)があります。「θ/2法」は液滴の左右の接触角を同じと見なして解析をしますが、tangent法(接線法)は、液滴左右の接触角を別々に解析する方法です。簡単ではありますが2種類の解析イメージを図1、図2に示します。
「θ/2法」、「tangent法(接線法)」のもっと詳しい内容については以下のリンクをご覧ください。
もし前回の測定データが「θ/2法」で解析されているのに今回の測定データの解析を「tangent法(接線法)」で解析してしまっていたとしたら、測定結果が異なってしまうこともあり得ることと思います。
ここで例として「θ/2法」と「tangent法」で解析した場合にどれくらい接触角値が変わるのかを見て頂こうと思います。
図3に「濡れに左右差のある液滴(θ/2法解析)」を示します。この液滴を例に見ていきます(わかりやすいように極端な例を撮影してみました)。
ケース1:θ/2法で解析した場合
θ/2法では液滴左右端点と液滴輪郭の頂点の3点から「θ/2」を求めることができます。あとは三角関数の倍角の公式から接触角θを算出することができます。
・・・三角関数 倍角の公式
≒ 0.3236
≒ 0.7229
≒ 35.86(deg)
途中計算の具合で約0.3(deg)の差は出てしまいましたが、手計算した場合でもソフトで解析した値に近しい値となりました。但し今回例に挙げている液滴はご覧いただいてわかる通り、濡れに左右差があります。θ/2法は左右の接触角を同じと見なすことが前提条件の解析方法ですので、このような形状の液滴をθ/2法で解析すると実際の接触角値と解析結果に差が生じてしまいます。
ケース2:tangent法(接線法)で解析した場合
この解析方法は液滴の端点近辺を円の一部とみなして端点での接線を求める接触角の解析手法です。接線法とも呼ばれています。液滴の左右それぞれの接触角を求める事ができるので左右端点の状態にばらつきが大きく、それぞれの接触角に違いがある場合に有効な測定手法です。
図3の「θ/2法」と図4の「tangent法(接線法」)の解析結果を見比べると、この液滴についてはtangent法(接線法)が液滴形状に合致しているように見えます。接触角値も「θ/2法:35.58°」に対し、「tangent法(接線法):31.25°」と解析方法で約4°の差が生じました。
つまりこの液滴についてはtangent法(接線法)が適切な解析方法であり、解析方法の選択を誤ると前回と今回で「接触角値が違う!」というような事態も起こりえるということになります。
前回測定と今回測定で解析方法を誤り、「測定値が違う」と思ってしまうこともないことではありませんが、私個人的にはこれによって「測定値が違う!どうしてだ?」となることは少ないのではないかと・・・。
ベースライン(液滴と固体試料との接液面位置)の検出の違い
2つ目は「ベースライン(液滴と固体試料との接液面位置)の検出の違い」です。
接触角測定値が装置メーカーによって異なるとしたら、これに依るのではないかと。濡れ性試験の規格についてはJIS R 3257(1999)「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」の中に 液滴量について「1μL以上、4μL以下」と規定があります。但しこれはあくまでガラス基板を用いた場合で実際に測定する試料や目的、状況は異なります(あとこれはCCDカメラでの測定が普及する前のJIS規定でもありますし) 。他にもないか色々と探してみましたが液滴量についての記載はあるものの、ベースラインについての規格は見当たりませんでした。接触角を測定する時は液滴と固体試料の接液面が真っすぐな境界線としてカメラで捉えられるのが理想です。ですが測定対象となる試料は形状、材質、表面状態が様々です。
具体的に例を挙げるのであれば・・・
- 表面粗さ(凹凸の有無)
- 液滴反射像の有無(鏡のように反射するか、しないか)
- 固体試料の反りの有無(反りがあるとベースライン検出が困難になる場合有)
このようなことが考えられるでしょうか・・・。ですので接触角測定の際には可能な限りで構いませんので液滴と固体試料の接液面がカメラで 鮮明に捉えられえるような環境、条件を整えてあげることが重要にもなってきます。
話が少し脱線してしまいましたが、つまりは液滴と固体試料のベースライン検出の統一基準がないことが装置メーカーによって測定値が異なる場合あることの要因ではないかと考えております。接触角計は長さを測るような「絶対評価の装置」ではなく、「相対評価の装置」となります。ですので装置を更新した際には測定が異なることもあるかもしれませんが、測定値の傾向は変わらないはずですのでそれでご評価いただければと思います。
レンタルで接触角計を御利用の御客様は可能な限り装置メーカーは統一していただけると判断に迷うことが無くなるのではないかと思います。ただ、どうしても測定結果が異なってしまい補正をしたいという場合にはどうしたら良いか。その場合にはやっていただきたいことが2点あります。
やっていただきたいこと 其の一:解析方法は前回(過去)と同じ解析方法か?
1つ目は「解析方法に違いが無いか?」ということです。これについては可能性低と個人的には思っているのですが、「一事が万事」ですので念のためご確認を。
やっていただきたいこと 其の二:ベースラインの位置
2つ目はベースラインの位置です。測定値が異なる場合はベースラインの位置を見て頂いて同じような位置にあるかを確認してみてください。もし「少し違うなぁ・・・」と見えたとしたらベースラインの位置をどちらか一方の位置に目視判断で良いので合わせていただくと、それだけで接触角測定値が変わります。
以上が装置メーカーによって測定値が異なる場合についてのあすみ技研の考え方です。少し長くなってしまいましたが、参考にしていただければ嬉しいです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(T.S)