PTFEは何故濡れないのか

いつもお世話になっております。あすみ技研、接触角計コラム担当です。

 

さて、今回のテーマは「PTFEは何で濡れないのか?」についてです。経験としてPTFEは濡れないとわかっている方はたくさんいらっしゃると思います。では「何で濡れないのか?」を説明できる、もしくは「こうなんじゃないか・・・」と語れる方は少ないのではないでしょうか。

PTFE(ポリテトラフルオロエチレン,polytetrafluoroethylene)と言うとあまりなじみがないかもしれませんが、要するにテフロン (Teflon) のことです。ちなみにテフロンは、デュポン社(Du Pont)の商品名です。 昔、コピー機のことをゼロックスと呼んだのと同じですね(歳がばれますね)。

 

PTFEは、普段の料理などで使用されるフライパンの表面に加工処理されていますが、食材がほとんどくっつきません。非常に摩擦係数の低い物質であることが知られています。

今回はそれを表面自由エネルギー計算を用いて少し調べてみようという試みです。ちなみに弊社ではUV洗浄改質装置も製造しておりますので、今回ついでにPTFEへの効果の有無も見てみました。結果やいかに・・・

使用装置

  • UVオゾン表面改質装置:ASM1101N
  • 照射距離:30mm
  • 接触角測定:B100
  • 測定理論:Owens and Wendt
  • 試薬:ジヨードメタン(diiodomethane、ヨウ化メチレン)、純水
UV照射によるPTFE-水の接触角変化
図1.UV照射時間ごとのPTFEの接触角
UV照射時間ごとのPTFEの表面自由エネルギーの変化
図2.UV照射時間ごとのPTFEの表面自由エネルギーの変化

今回、表面自由エネルギー計算理論は「Owens and Wendt」を採用しました。理由については・・・試薬が2液で済むことと数ある理論の中でも最も広く知られている理論だからです。

さて、結果を見てみるとUV照射で表面の洗浄改質を試みてもPTFEにはほとんど効果はありません。接触角もそれを示していますし、表面自由エネルギーの水素結合力がまったく増える気配がありません。PTFEの表面自由エネルギーの成分はほぼ分散力で構成されているということが測定結果から明確にわかりますね。今回の結果から言えることは表面自由エネルギーの構成成分で分散力が占める割合が高いと濡れにくいということになるのではないでしょうか。

 

いかがでしたか?撥水性材料の代表と言っても過言ではないPTFEの撥水性の理由が表面自由エネルギー計算という方法だと今回のように調べることができます。もっと根っこまで掘ると構造式の話になるのですが・・・それはまた別の機会に。

 

濡れない、濡れないと言っている材料も何で濡れないかを知るには表面自由エネルギー計算が有効な手段になるかも・・・ですね。理論式がたくさんあるので、どれがいいかは迷いますけど・・・。

 

それでは今回はこのあたりで。今回も最後まで読んでいただきまして有難うございました。

(T.S)

【追記 2019/10/16】

本コラム作成後に社内から意見を頂き、追記しました。『これでは、うちのUV照射装置は役立たずみたいではないか』と。

下記にABSにUV照射(装置、条件等はPTFEと同じ)した場合の、濡れ性と表面自由エネルギーの変化をグラフに掲載しました。

UV照射時間ごとのABSの接触角
図3.UV照射時間ごとのABSの接触角
ABS接触角(UV照射前)
ABS接触角(UV照射前)
ABS接触角(UV照射後)
ABS接触角(UV照射後)

UV照射時間ごとのABSの表面自由エネルギーの変化
図4.UV照射時間ごとのABSの表面自由エネルギーの変化

ジヨードメタンの濡れ性はほとんど変化がありませんが、UV照射によって水素結合力がほぼゼロから35mJ/㎡辺りまで増加します。結果として、純水での接触角は、90°近辺から20°くらいまで大きく下げることができました。

PTFEのように非常に化学的に安定している物質では、なかなかUVによる表面改質は難しいのですが、それ以外の樹脂や金属では効果を上げることが可能です。